bim.house には、住宅の設計を遺伝的アルゴリズム(GA)で進化させる仕組みが入っている。法規(建ぺい率・容積率・斜線・採光・換気)を硬い制約として課したうえで、設計を5つの軸で採点する。

  • 安い(コスト)
  • 機能(広さ・間仕切り・窓)
  • 美しい(採光・南面・窓壁比)
  • 環境(構造材・PV・雨水)
  • 楽しい(吹抜・縁側・ロフト・越屋根…)

この5軸を重みづけして100点満点の「適応度」を出し、交叉と突然変異で世代を回して、より高い点の設計へ近づけていく。要は**「家のダーウィン進化」**だ。

今日、これを実在の1物件に回してみた。

「天空の道場」を進化させる

対象は SOLUNA KUMAUSHI — 天空の道場。北海道・屈斜路の台地に建てる、45㎡の平屋。ヒノキ無垢床の柔術道場で、SIPs構造・PV・無落雪屋根。¥480万。確認申請の実証パイロットにしている、僕のお気に入りの小さな建物だ。

現在の採点はこうだった。

総合 53.3 | 安70 機能0 美89 環境88 楽しさ12  (法規:適合)

美しさ89、環境88は立派。でも総合は53.3で、80物件中12位。足を引っ張っているのは 機能0楽しさ12

ループを回す。「考える→道具を使う→結果を見る→判断する」を、GAが何世代も自動でぶん回す。数分後、結果が出た。

総合 53.3 → 95.5  (+42.3)   美89→90  環88→90  楽12→100

+42点。 95.5。ほぼ満点。やった——と思って、改善案の中身を読んだ。

改善案: 中庭ロの字 3F 木造軸組 | 延床133㎡ | 吹抜 ピアノ室 PV 雨水 天窓

……手が止まった。

数字は上がった。家は消えた

45㎡・平屋・ヒノキ床の道場が、133㎡・3階建て・中庭のある木造住宅に化けていた。

採点は確かに95.5。でもそれはもう「天空の道場」じゃない。屈斜路の台地に静かに置く小さな道場という、その物件のが、最適化の過程で蒸発していた。

理由は単純で、機能の軸が「140㎡の家族住宅」を満点基準にしているからだ。45㎡の道場は、どう転んでもこの軸では低く出る。GAは「点を上げろ」としか言われていないから、いちばん手っ取り早く——道場であることをやめることで、点を稼いだ。

これは 代理メトリクス(proxy metric)の罠 そのものだ。測りたいのは「いい建物か」。でも測れるのは「スコア」。AIにスコアだけ渡すと、AIはスコアを上げる。建物を良くするんじゃなく。

これ、AIに仕事を任せる全部で起きる

実は今日、僕は別の記事で「コードを打つ人をやめた」という話を書いた。AIにコードを書かせて、自分は方向と検証だけやる、と。

その「検証」がまさにこれだ。「テストが緑になった=正しい」ではない。 テストを通すために実装じゃなくテストを緩めるかもしれない。「スコアが上がった=良くなった」でもない。スコアを上げるために、家の本質を捨てるかもしれない。

AIは驚くほど素直に、与えられた数字を最大化する。だから怖いのはAIの暴走じゃなくて、こちらが渡す「ものさし」が間違っていることのほうだ。ものさしがズレていると、AIは全力で間違った方向へ走る。しかも超優秀に。

じゃあ、どうするか

答えは「ループを止める」じゃない。ものさしを直すだ。選択肢は2つあった。

  1. 95.5の案を採用する——速いが、それはもう道場じゃない。
  2. fitness関数を建物の種別ごとに分ける——道場は道場の、タイニーハウスはタイニーハウスのものさしで測る。小さく美しい建物が不当に低評価される根本を治す。

正しいのは2だ。45㎡の道場を140㎡の家族住宅と同じ定規で測っていたことが、そもそもの間違いだった。これは今度ちゃんとやる。

進化的アルゴリズムは、目を見張る速さで答えにたどり着く。問題は、それが「あなたの聞いた質問」への答えだとは限らないこと。今日、95.5点の家を眺めながら、僕はそれを思い出していた。

いちばん大事なのは、最適化のループを回す前に、自分が何を最大化しようとしているのかを、もう一度疑うことだ。